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Stefano Bemer in Firenze(フィレンツェのステファノ・ベーメル)

CATEGORY靴・服飾
ステファノ・ベーメルの日本人職人さん

【Stefano Bemer(ステファノ・ベーメル)】
住所:Via San Niccolo 2, Firenze
hotel four seasons内 borgo pinti 99, Firenze
23 East 67th Street, 6th Floor, New York
価格:ビスポーク・シューズ、3,650ユーロ~。九分仕立ての場合は2,450ユーロ~。いずれもシュー・トゥリー込価格。初回注文時のみ、ラスト代600ユーロ増。
既製靴は1,150ユーロ~。

4-5カ月で完成。仮縫い時はトライアルシューズを作成。通常、注文日から1-2か月後に仮縫いですが、100ユーロの追加料金で2営業日後に仮縫い可能のサーヴィスもございます。そして、そのサーヴィスを利用する場合は、注文する10日前までに予め申し込みが必要です。
既製靴とストゥルパイの靴紐も取り扱っています。既製靴は出し縫いだけマシンのハンドソーン・ウェルテッド製法が主で、レディースはマッケイ製法もあります。

フィレンツェには工房兼店舗とフォーシーズンズホテル内と二店舗あり、記事はVia San Niccolo 2, Firenzeの工房兼店舗の様子です。ニューヨークにも予約制ショールームがあり、こちらももちろん、一般の方も来場可能です。英語可。


ステファノ・ベーメルの工房

ステファノ・ベーメル氏が1983年にトスカーナ地方のGreve in Chianti(グレーヴェ・イン・キアンティ)にて、靴修理店を開いたのが始まりのブランドです。その地域に靴修理屋がなかったのが、開業した理由だったとか。そして、お客の一人がジョン・ロブの靴を持ち込み、それがきっかけでステファノ氏は靴を作ってみたいと思うようになったそうです。お店は87年にフィレンツェ中心部に移動し、昼は靴修理の仕事をしつつ、夜はベテラン職人さんに靴作りを教わり、ステファノ氏は技術習得に励んでいたとの事。

やがて99年に英国の俳優、Daniel Day Lewis(ダニエル・デイ・ルイス)氏が来店。もちろん客として来たのですが、その時にダニエル氏は靴作りに興味を持ち、10カ月、ステファノ氏から靴作りを学ぶと、氏はメディアにも注目されるようになり、ブランドが成長する大きな契機となったそうです。そして02年には、東京の外苑前にも出店しました。

ステファノ氏は12年7月28日にご逝去され、同年末に、Tommaso Melani(トンマーゾ・メラーニ)さんが同社を買い取る事が決定し、今に至っております。なお、メラーニさんのお祖父様はScuola del Cuoio(スクオラ・デル・クオイオ)、日本では英訳である「レザースクール」と紹介される事が多い、職業訓練校の創設者です。

上画像は13年6月に移転した、元教会を改装して作った現工房。一般開放されており、仕事の様子が見られるようになっております。工房で作るのはビスポークのみで、既製はフェッラーラにある別工場製。九分のビスポークの出し縫い作業も、ここの工房かフェッラーラの工場で半々だそうです。ちなみに、九分のビスポークはメラーニさん体制になって始めたラインだとか。


ステファノ・ベーメルの井俣久美子さん

トランクショーでたびたび来日もされている、井俣久美子(Kumiko Imata)さん。もちろん正社員です。05年から同工房で勤務しており、現在ではビスポーク・シューズの肝心要であるラストメイクと生産管理を担当しております。僕が伺った際、工房でもっとも勤務歴の長い坂東雅子(Masako Bando)さんは休暇中だったのですが、現在のステファノ・ベーメルはこの井俣さんと坂東さんが中心となって靴作りが行われています。


ステファノ・ベーメルの製作工程

84年生まれ、ボトムメイク担当で正社員の谷明(Akira Tani)さん。僕が伺った当時、谷さんは同工房で2年勤務しており、日本ではAnnの西山彰嘉さんに製靴を学んだそうです。


ステファノ・ベーメルの工房

もちろん、日本人以外の職人さんもいらっしゃいます。


ステファノ・ベーメルの製作工程

工房内には分解した靴がディスプレイされておりました。シャンクは木製で、フィラーはコルクを使用。以前は革のフィラーだったのですが、お客さんから「硬い」と言われたため、コルクに変更したとのお話でした。


ステファノ・ベーメルの製作工程

インソールとアウトソールはイタリア製を使用。掬い縫いはイタリア製の麻糸、出し縫いには、日本の橋印の麻糸を使用しております。バルセロナのノルマン・ヴィラルタさんも橋印の麻糸を使用しておりますが、これは井俣さんから薦められたためだとか。イタリア製の麻糸が品質低下したため、良い麻糸を探したところ、見当たったのが橋印の麻糸だったそうです。

「これまで使っていたイタリア製の麻糸と比べて、全然切れません。なので、ノルマンにも薦めました」


ステファノ・ベーメルの革のストックルーム

アッパー革はフランス製を主に使用。


ステファノ・ベーメルのクリッカーさん

クリッキングルームは奥にあり、その作業の様子です。


ステファノ・ベーメルのラスト

2階にはラストがオブジェとして飾られています。ラストは木製とプラスティック製を併用しておりますが、基本的にビスポークは木製ラストを使用するそうです。


ステファノ・ベーメルのサンプル

同じく2階には、ステファノ・ベーメル氏生前のビスポーク・シューズサンプルが飾られています。上もその一つで、太陽を模したようなメダリオンがユニークですね。そしてアダレイドは、パンチングやスティッチワークではなく、別革を乗せる事で立体感を持たせています。


ステファノ・ベーメルのサンプル

ベルルッティっぽくもある脇に入った刺繍はチロル地方発祥の物で、実際にチロル出身の職人さんに刺繍してもらったそうで、ステファノ氏の凝り性が伺えますね。


ステファノ・ベーメルのサンプル

野球ボールと同じ手法によるモカ縫いで、よりカジュアル感が増すデザインとなっておりますね。


ステファノ・ベーメルのサンプル

バスケットボールと同じ、細かいシボがある革を用いております。そして釣り込みで引っ張る事により、トウの部分だけシボをフラットにし、意図的にコントラストを持たせています。


ステファノ・ベーメルのサンプル

両足合わせてフォルムが完成する、角形デザイン。


ステファノ・ベーメルのサンプル

鮫革の靴で、ステファノ氏がこう言ったエキゾティック・レザーの扱いが得意だったのは、よく知られていますね。

「技術は上手くなっても、デザインセンスはかないませんね」

ステファノ・ベーメル氏生前のビスポーク・サンプルをご解説しつつ、井俣さんの一言です。

また、井俣さんはラストメイクの際、メジャーで何度も測って数値を確認していたら、ステファノ氏に「また測っている」と叱られたそうです。メジャーを使うにしても、それにばかり頼るなと。

「美しさは君が知っている」

つまり、目に見える数値ではなく、自分の感覚、内面から出たものが答えだと。以前に僕が聞いた話だと、英国のビスポーク業界(靴だけでなくスーツも)でも、「数値にとらわれるな」とはよく言われるそうで、それとも共通する井俣さんとステファノ氏のエピソードです。


ステファノ・ベーメルのレディースサンプル

ここからは既製のレディースシューズのサンプルです。


ステファノ・ベーメルのレディースサンプル

マニッシュながらプレーンすぎず、ちょっぴり遊び心あり、ステファノ・ベーメルらしいデザインです。


ステファノ・ベーメルのレディースサンプル

これらも一見メンズですが、実際はレディースです。


ステファノ・ベーメルの靴箱

ステファノ・ベーメルの木箱は、実際に使用している革が靴の形になって貼られており、色や素材が分かりやすいようになっております。


ステファノ・ベーメルの教室

3階はメラーニさん体制になってから始めた靴教室となっております。もっとも、ステファノ氏生前から靴教室の構想はあったそうです。講師は坂東さんで、1日6時間で週5日、6か月で終了のカリキュラムとなっており、腕の良い人は職人として雇うとの事。なお、イタリア語か英語で指導するため、これらの語学力は必須です。現在、生徒は韓国やタイなどのアジア出身者が多いとの事。

ちなみにステファノ・ベーメルでは、ビスポークのインソールのくせ付けは、かつて技術部長を務めていたステファン・ジムネズさん同様にゴムチューブで巻き上げる方法ですが、靴教室で教えるのは、「ハンマーの使い方を覚えてもらうため」と、インソールの周囲に釘を打ち付ける方法だそうです。


ステファノ・ベーメルの店舗

店舗の外観です。



※情報はいずれも、僕が訪問した2015年5月28日時点のものです。
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