Mannina in Firenze(フィレンツェのマンニーナ)
CATEGORY靴・服飾

【Mannina(マンニーナ)】
住所:Via de' Guicciardini, 16, 50125 Firenze
価格:ビスポーク・シューズ、マッケイ製法の場合は1,100ユーロ~。ハンドソーン・ウェルテッド製法やノルヴェジェーゼ製法は1,600ユーロ~。既製靴は395ユーロ~。送料50ユーロ。
仮縫い無しだが、足に問題を抱えているお客さんの場合は行う事も有。5カ月前後で完成。既製靴もあります。世界的に著名な靴職人、Calogero Mannina(カロージェロ・マンニーナ)さんが1953年に創業したお店です。英語可。

創業者のカロージェロさんは2014年9月末、78歳でご逝去され(79歳の誕生日目前だったそうです)、二代目当主としてマネジメントおよび、メンズとレディースの既製靴のデザインを務める、息子さんのAntonio Mannina(アントニオ・マンニーナ)さん。
「靴下のように軽く柔らかくストレスなく履けて、そしてエレガントな靴」
それがカロージェロさんの理念であり、そのため、生産の9割が軽く柔らかく仕上がるマッケイ製法です。とは言え、ウェルテッド製法を作る場合でも、軽量になるように心がけているとの事。そして、マッケイ製法はウェルテッド製法と比べて修理回数が限られますが、それでもある程度の修理回数に耐えうるよう、縫い代を多く取っておくそうです。

店舗からすぐ近くにある工房でして、ビスポークも既製靴もここで作られます。ビスポークの年間生産量は200~250足ほど。もちろん、既製はさらにあります。

86年生まれのGiovanni Lorenzo(ジョヴァンニ・ロレンツォ)さんは2017年1月現在、勤務して7年目で、工房での勤務歴がもっとも長く、ビスポークの採寸、ラストメイク、パターンメイク、クリッキングと、重要なポジションを任されています。
これまでマンニーナで修行した職人さんは、日本人やルーマニア人と言った外国人が多かったのですが、このジョヴァンニさんがようやく現れたイタリア人後継者とのお話でした。

現在で勤務歴6年目の大谷英里子(Eriko Ohtani)さん。大谷さんはフィレンツェの靴学校に3ヶ月通い、その時に偶然マンニーナを知り、工房をたびたび覗かせて頂いてるうちに弟子入り。最初の1年は靴磨きと仕上げのみの担当だったそうで、2年目からスティッチングのお仕事に携わるようになったそうです。
14年9月から晴れて正社員となり、現在ではビスポークの採寸に、オーダー時のデザイン画、ボトムメイク(釣り込み、掬い縫い、出し縫い)、モカ縫いを含む手縫い全般、そしてパティーヌと、多岐にわたって仕事を任されております。

勤務歴3年のLeonardo Burchi(レオナルド・ブルキ)さんは、ヒールメイクからコバ仕上げ、磨き等の最終仕上げを担当。生前のカロージェロさんが面接して採用した最後の研修生でして、フィレンツェ生まれでフィレンツェ育ちのFiorentino(フィオレンティーノ)職人さんです。

僕が訪問した15年5月に、インターンシップで在籍されていた中田吐夢(Tomu Nakata)さん。中田さんは1年、フィレンツェの靴学校に通った後、このマンニーナにて15年11月まで、約1年研修されたそうです。現在は独立し、ビスポークと既製、両方を手がけるハンドメイドシューズ店、La Rificolona(ラ・リフィコローナ)を開業しております。

ラストは木製とプラスティック製を併用しており、木製ラストはビスポーク専用、プラスティックラストは既製用ですが、たまにビスポークにも使うそうです。

マンニーナの出し縫いは、ビスポークの場合はどう言った製法でもハンド、既製靴だとマシンです。そして、ハンドでマッケイ製法の出し縫いをする場合、針を用いないのが特徴でして、まずは単糸を3本、ご覧のように手作業で撚ります。
ちなみに使用している麻糸は、ステファノ・ベーメルやバルセロナのノルマン・ヴィラルタ、ボローニャのペロン・エ・ペロンと同じく、日本の橋印の麻糸です。


その撚って細くした糸先にチャン(松脂と油や蜜蝋を煮固めた物)を擦り込んで固くし、その糸先を針代わりにして縫うそうです。針も貴重品だった時代に、針なしでも作れるように編み出された手法です。そして、もちろんこの方法でも、手縫いなので二本ではなく、一本の糸で縫います。

出し縫いをかける際、上画像のように湿らせたアウトソールを取り付け、針で糸を通すための穴を空けますが、その針穴が、糸だけで縫うため小さい穴で済みます。もしこれが、針も使って縫うとなると、針も通す分、針穴を大きくせざるをえません。
そして、このアウトソールが湿っているうちに出し縫いをかけ、やがてアウトソールが乾くと、それに伴って針穴も締まります。そして、針穴が小さい分、糸が強い力で締められ、結果、アウトソールも強固に取り付けられるわけです。この小さい針穴で縫える事、それが糸だけで出し縫いする最大のメリットだそうです。
なお、出し縫いがマシンだと、針穴が大きいだけでなく、ミシンに対して強靭、かつ滑りが良いポリエステルなどの糸が使われるため、経年変化で出し縫いが緩くなりやすいと言うご説明でした。

そして、マッケイ製法の場合、上画像のように出し縫いが靴内部にあるため、爪先を縫う際に針先が見えにくく、針がライニングに当たって傷めてしまう可能性があります。しかし、糸のみで縫うと、その可能性が防げるメリットもあります。

インソールのくせ付けは、イタリアはもちろん、英国、フランス、日本でもよく用いられる、ラストとインソールを貼り合わせて、その周囲に釘を打つ方法です。
そして、ビスポークに限り、インソールとさらにもう一枚、茶色の革を後半部に入れます(赤矢印)。この茶色の革を仕込む事で、マッケイ製法とは言え、ウェルテッド製法のようなインソールの沈み込みを持たせ、足馴染みを良くするそうです。この革の厚みはお客さんの体重や歩行癖によって変えるそうで、まさにカスタムメイド、ビスポークと呼べる工夫ですね。そして、この革にもくせ付けをして、立体性を高める一手間をかけております。
さらに、この革がシャンク代わりともなるそうですが、お客さん次第でさらにメタルシャンクも仕込んだりと、革だけか、メタルシャンクも入れるか、その割合は半々だそうです。また、たまに木製シャンクも用いるとの事。
なお、この茶色の革は、インソール用である牛の肩(ショルダー)部分と、アウトソール用である牛の腰(ベンズ)部分の、中間部位の革を使用するそうです。同じ牛革でも、肩部分は柔らかく、腰部分は硬い特徴があり、その中間位置にある革ですから、特徴も中間で、靴に入る位置も中間と言うわけですね。
白矢印にあるくぼみは、これによってインソールの中央を盛り上げ、足に難のあるお客さんの歩行を助ける、整形靴的工夫だそうです。ただ、この手法は足が健常なお客さんには逆にやってはいけないそうで、全ての靴がこうなるわけではありません。
マッケイ製法とは言えレザーのフィラーも入れており、使用するレザーはインソールと同じく牛の肩部分、つまり柔軟性がある部位です。フィラーにもインソールと同じ部位を使う事で、足馴染み良く仕上がるとの事。ちなみにカロージェロさんは、「コルク(のフィラー)は音が鳴るのでエレガントじゃない」とも話していたとか。
そして月型芯、先芯の加工に機械は使わず、手作業です。
「マシンで加工すると、その摩擦で革が焦げたようになって固くなってしまうので」
カロージェロさんの理念である、「靴下のように軽く柔らかく」に通じますね。

マンニーナでは、インソールの淵をラストに巻き込むようにくせ付けするのではなく、ご覧のように、淵が少し余る感じです。この余った淵は後で切り落とされますが、その切り落とす時にラストの形どおりになるので、巻き込まないのとの事。
インソールとアウトソールに使用するのはトスカーナ産、つまりイタリアの革で、お客さんの要望次第ではレンデンバッハだそうです。そして、 お客さんにはクロムアレルギーの方もいるため、足に直接当たるライニングやインソールにはBio(オーガニック)、つまりナチュラルレザーを基本的に使用と、気を配っております。

アッパー革も柔らかいタイプを使用で、トスカーナ産がメインです。そして、そのアッパー革の特徴について、ご説明頂きました。
「銀面が加工によって元から光っているものではなく、マットな質感です。足馴染みが大変良く、クリームがしっかりと内部まで浸透するため履き皺が入り辛く、きちんとお手入れをすると革内部から光沢が出ます」
また、現在、マンニーナでは鹿革を使用して作る事も多く、その場合は50~100ユーロほどプラスとなるそうです。

鮮やかな色が揃う、イタリアのタンナー、Stefania(ステファーニア)の革はレディース用です。
なお、製甲については外注なのですが、2014年12月に、日本の製甲達人、康澤民(Sawami Kou)さんがマンニーナをはじめ、フィレンツェで数日お仕事をされており、康さんはフィレンツェと日本の製甲の違いについて、こう述べておりました。
「フィレンツェだと、製甲について日本ほど細かい指定がありません。例えば日本だと、スティッチの間隔やブローグスの親子穴の位置や大きさとかも指定されるんですが、フィレンツェだとそれは製甲職人に任せられます。そのため、製甲職人自身の美意識や感覚が要求されて、私はそれがとても楽しく、良い経験となりました。最適な穴の大きさって、革の厚みによって違うんですよね。厚い革に小さい穴だと合わないと思うし、薄い革だと大きい穴は合わないと思う。そう言った判断は、実際に革を手にして作る、製甲職人に任せた方が理に適っていると思います」
そして、康さんの仕事をご覧になったマンニーナの方々は言いました。
「康さんの技術は神業です。こちらが何も言わなくとも、康さんのセンスで素晴らしい出来に仕上げてくれました」
最適バランスは、その仕事をよく知る職人に任せるのがフィレンツェ流と言う事でしょうか。もちろん、日本のように指示どおりに作るのも、品質を安定させるために重要です。ただ、仕事を判断するのは仕事を出す人か(日本)、仕事をする人か(フィレンツェ)、どちらに任せるかと言う点で、フィレンツェと日本の物作りにおける、概念の違いが伺えました。

こちらは店内の様子です。昔から日本でも紹介されており、有名ですね。

そして、ビスポーク・シューズです。もちろんデザインは自由でして、レースステイ脇のスティッチに、注文主さんの遊び心を感じさせます。

パンチングのみのアダレイドが洒落ていますね。



クロコダイルのローファーは英国靴を思わせる雰囲気ですね。そして、右のハント・ダービーブーツはいかにもクラシックなイタリアらしいデザインです!

上画像からは既製靴のサンプルでして、奇をてらったデザインはなく、どれも普遍的なデザインですね。既製靴は98%がマッケイ製法で、ウェルテッド製法やノルヴェジーゼ製法は少しになります。価格は395ユーロ~で、ハンドメイドシューズが比較的お手頃価格なのも、マンニーナが人気の理由の一つです。

当主のアントニオさんお薦めのモデル、Uチップのモンクストラップ。





レディースも多く販売されています。

創業者のカロージェロさんが獲得した賞状。そして、飾られている写真には日本人と撮ったのもありました。

店舗の外観です。
※2020年1月8日0時25分、マッケイ製法の価格と、テキストを一部修正しました。
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