A.Caraceni and Ferdinando Caraceni in Milano(ミラノのA.カラチェーニとフェルディナンド・カラチェーニ)
CATEGORY靴・服飾

【A.Caraceni(A.カラチェーニ)】
住所:Via Fatebenefratelli, 16, 20121 Milano
価格:ビスポーク・スーツ、5,400ユーロ~。
仮縫い3回、2-3カ月で完成。ライニングはシルクのみで、ボタンも天然素材のみ。英語可。

右が三代目当主のCarlo Andreacchio(カルロ・アンドレアッキオ)さん、左が息子さんのMassimiliano(マッシミリアーノ)さん。お二人ともカッターです。採寸箇所は上半身と下半身合わせて26ヶ所で、自分たちの採寸方法を「カラチェーニシステム」と呼んでおり、他店同様に独自の方法のようです。

A.カラチェーニのパターン。他のミラノのサルトリアと同じく、細腹は取らないのが分かりますね。そしてこのお店では、パターン作成の際、面白い方法を採用しておりました。まず最初に、この緑の生地にチョークでパターンを引きます。この生地だと、チョークで引いた線は簡単に消せるため、書き直しが可能です。

緑の生地上でパターンが完成したら、その緑の生地を紙の上に乗せます。そして、とげの付いた小型ローラーで、緑の生地に引いたチョークの線をなぞります。

こう言った具合です。

すると、緑の生地下に置かれた紙には、そのとげの跡が残っているため、その跡に沿って線を引いてパターンを作ります。つまり、緑の生地上でパターンの下書きを行っているわけで、A.カラチェーニのパターンへの意識の高さが伝わって来ますね。ただ、この方法はジャケットのパターンのみで、トラウザースについては紙に直接パターンを書くそうです。

もちろん芯地は自作で、ごく薄い物を使うとの事でした。

まだ作成途中ですが、芯地が据えられているため、立体感が出ておりますね。

著名サルトだけあって広い工房はいくつかの部屋に分かれており、そのうちの一室です。縫製時にノリは使わないとの事で、ボタンホールはシルク糸、ボタン付はコットン糸です。

ビスポーク・テイラーと言っても、ショルダーパッドは出来合いをモディファイして使うのはごく普通ですが、A.カラチェーニではそのショルダーパッドも自作です。そして、これも手縫いで作られます。

用途に応じて綿をこのように剥いで、ショルダーパッドの中に詰めるわけですね。

お客さんに納品時、最終の直しを行う、裁縫師さんの中でも最も重要な役割を担う職人さんです。

工房では日本人職人さんが三名働いており、そのうちのお一人の画像です。お顔の写真は不可でした(笑)。僕が伺った当時で8年働いているとの事でした。

店内はさすがに世界的な有名店だけあって、ストック生地も豊富です。なお、麻生地についてはアイリッシュリネンのみを使用し、他国のは使用しないとの事です。

【Ferdinando Caraceni(フェルディナンド・カラチェーニ)】
住所:Via S. Marco, 22, 20121 Milano
価格:ビスポーク・スーツ、5,500ユーロ~。
仮縫い3回、2カ月で完成。2回目以降の注文は、仮縫い回数を減らせます。英語可。

創業者であるFerdinando Caraceni(フェルディナンド・カラチェーニ)氏の娘さんで、二代目当主のNicoletta Caraceni(ニコレッタ・カラチェーニ)さん。
「私たちはファッションは作りません。狭いラペルが合わない人に狭いラペルのスーツは作らないし、広いラペルが合わない人に広いラペルのスーツは作りません。その人の個性を重視した服作りをします。猫背や反身の人にも、まっすぐ見えるジャケットを作ります。それがビスポークです」
そう話すニコレッタさんはマネジメントとフィッターを務めており、1982年に入社して以降、お父様とともに働いた21年間で、多くの事をお父様から受け継いだとの事でした。

創業者で、ドメニコ・カラチェーニ、アウグスト・カラチェーニ(A・カラチェーニ)にて勤務後、67年に独立開業し、04年にご逝去されたフェルディナンド・カラチェーニ氏。ちなみに、ドメニコ・カラチェーニ氏やアウグスト・カラチェーニ氏と血縁関係はないそうです。

生地の90%は英国製で、他はイタリア製です。麻生地はアイリッシュリネンのみを使用するそうで、A.カラチェーニと同じ事を話しておりました。そしてニコレッタさん、ストック生地の一つを取り出し、それを何度か左右から引っ張り、"パンパン"と音を鳴らして見せました。
「良い生地は左右から引っ張ると、良い音が出る」
ニコレッタさんがお父様から教わった事の一つだそうで、良い生地は糸も織りもしっかりしているので、引っ張ったら良い音が出ると言う事なのでしょうね。

スキャバルのラピス・ラズリ、EOS、インペリアル・トリロジーと言った超高級生地も扱っております。他にもSuper150's以上の高番手ウールにカシミアやミンク、グァナコ、シルクと言った高級素材を混紡した、ラグジュアリーな生地バンチも多かったです。こう言った軽量で柔らかな生地は、柔らかさを重視したイタリアのテイラーリングと相性が良いです。

ストック生地の一つ、ヴィクーニャとカシミアの混紡生地で、しっとりとした美しい光沢に見惚れます。

同店製のジャケットの裏でして、やはりイタリアらしく、多くの箇所が手縫いです。襟付、袖付、ライニングの取付はもちろん、背中中央など、通常ならミシン縫いの箇所も手縫いでした。そして、他の多くのミラノのサルトリアと同様、パターンで細腹は取りません。
「細腹を取るのは仕事としては楽です。でも、美しくない」

「襟が浮かず、離れず、良い具合に落ち着いている」
自らがご着用されているジャケットを指して、そのフィットの良さをご説明下さるニコレッタさん。ショルダーラインはソフトに、少しだけ肩先が上がっていのがスタイルだそうです。

同店製のアルスターコートの上襟の裏です。黄線の箇所に斜めのスティッチ、青線の箇所に三角型のスティッチが入っております。

なぜこのスティッチが入っているのかと言うと、風除けのために襟を立てて着る際、上画像のように、襟の立体性を保持するためだそうで、アルスターコートならではの実用性を考えての工夫ですね。なお、全てのコートにこのスティッチが入るわけではないそうです。

ボタンを留め、襟を立ててこのアルスターコートを着た際、正面からはこのように見え、確かに上襟がしっかり立ち、首周りを包み込んでいます。

ボタンを外しても、上襟がしっかり起立していますね。

店内奥にある、工房の様子です。

現在のチーフカッターである、Carmelina Raco(カルメリーナ・ラコ)さん。

当然芯地は自作で、台芯は麻100%。ハ刺しとボタン付はコットン糸で、縫製とボタンホールはシルク糸を使用です。
「芯には薄い物を入れ、ハンカチのように柔らかいのが私たちの服です」
ニコレッタさんがご説明下さいました。

このお店でもショルダーパッドに出来合いは使わず、自作しております。

ご覧のように、手縫いでの作成です。ショルダーパッドについてはコットン糸使用でした。

トラウザースも脇縫いはミシンですが、それ以外の多くの箇所が手縫いです。

お店はビルの一室にあり、その外観です。
※情報はいずれも、僕が訪問した2015年5月21・22日時点のものです。
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