James "Jim" McCormack in St Albans(セント・オールバンズのジェイムス・"ジム"・マコーマック)
CATEGORY靴・服飾

【James "Jim" McCormack(ジェイムス・"ジム"・マコーマック)】
連絡先:jdmc7@btopenworld.com
価格:ビスポーク・シューズ、シュー・トゥリー込で2,300~2,500£。エキゾチックレザーなどを使用の場合は、さらに高くなります。
6か月で完成。仮縫いは必要に応じて2回行い、トライアルシューズを作る事もあります。
10数年前に聞いた話。ロンドンの某著名ラストメイカーさんが来日した際、日本の某著名ビスポーク・シュー・メイカーさんの靴を見て、その出来栄えを賞賛したそうです。
「素晴らしい靴だ!こんなに上手い職人、英国にもなかなかいない!」
「どうだ?これはジム・マコーマックより上手いか?」
「Impossible(ありえない)」
その日本の職人さんも名手で知られており、それでもそこまで言わしめるジム・マコーマックさんとは、そんなに上手いのか……と驚かされました。
ロンドンのビスポーク・シュー・メイカーはボトムメイキングはアウトワーカー(外注職人)さんに依頼する事が多く、その中でも英国人最高峰と誉れ高いのが、James "Jim" McCormack(ジェイムス・"ジム"・マコーマック)さん。その高い技術と優しいお人柄で、多くの靴職人さんから尊敬されております。もちろん、現在もアウトワーカーとして活動しておられ、個人的にビスポーク・シューズの注文も受けております。

ロンドンから電車で約20-30分ほどのセント・オールバンズにある、ご自宅の庭に建てられた小屋がジムさんの工房です。外壁は業者さんに建ててもらったものの、内装はご自身で行っておられ、さすがのクラフトマンです!

「天気の良い日は、こうやって(ドアの上部だけ開けて)紅茶を飲むんだよ」
紅茶と晴天を愛する姿が、いかにも英国人なジムさん。入口のドアが上下に分かれているのも、ジムさんの設計です。
58年生まれのジムさんは学校卒業前に靴修理のアルバイトをし、「ハイスタンダードな靴を作りたい」と言う思いから靴職人の道へ。16歳でロンドンの東にあったオーソペディック・シューズの会社、H Clogg(H・クロッグ)にて靴職人修行を開始。そして、76年にはジョン・ロブに移籍してさらに修行。その後、現在のようにアウトワーカーとして活動されております。一か月に一度、靴教室も開講しており、日本人の生徒さんもこれまで何名かいたそうです。
なお、ジムさんの趣味は水泳とスキューバダイビングで、さすがの屈強な体つき。ボトムメイクは力仕事なので、それも仕事に活かされているのでしょうね。
そして、僕はこの日、ウクライナのハルキウで買ったスニーカーのような靴を履いていたのですが、ジムさんは僕と会うなり、「それはどこのビスポーク・シューズだ?」とジョークを言ってきました(笑)。ジムさん、とても気さくな方です!

「タックゼック(トゥーシェック)のようなオールドイングリッシュスタイルと、アンソニー・クレヴァリーの現代性が、私の学んだスタイル。スタイリッシュ、そしてイングリッシュが自分のハウススタイルだ。大事なのは、グッドシェイプ、グッドフィニッシング。好きなのは、スマートラウンドトウとジェントルスクエアトウ」
ジムさんのご説明どおり、どれも英国的かつ美しい仕上がりの、ジムさんのビスポーク・シューズのサンプル。

こちらも同じくジムさんのサンプルシューズで、モダンな雰囲気の、細身のチゼルトウもありますね。
「ガジアーノ&ガーリングのモダンデザインは良い事だ」
「ピエール・コルテのスタイルにも興味があるよ」
英国のクラシックスタイルがお好きなジムさんですが、それに固執する事なく、モダンなスタイルも受け入れる懐の深さもお持ちです。それが、ジムさんが色んなメイカーから依頼を受けても、良い雰囲気で仕上げられる所以なのかなと思いました。

ジムさんのビスポーク・シューズはアッパー革は黒はワインハイマーで、茶色はフランスかイタリア製。底材や芯材、シャンクはベイカー、フィラーはタールを含んだフェルトと、他のロンドンのビスポーク・シュー・メイカーと同じですね。ビーディングも柔軟性を重視してグラッセキッドを用いています。ただ、フィラーはお客の注文次第でコルクも使うそうです。

美しく、滑らかに入ったベヴェルド・ウェイスト。

アリゲーターもスムーズに立体成形されています。

つま先まで落ち着いてピタリと入っていますね。

「フィドルバックはこれまでたくさん作ってきたからね。特に難しくない」
手間と技術を要するフィドルバックについても、ジムさんは涼しい顔で話しておりました。

ジムさんが着用していた、自作のビスポーク・シューズ。ラウンドトウの具合やシェイプと言い、これぞ英国靴と言ったオーセンティックなデザインですね。

ボトムメイクが専門のジムさんですが、もちろん、ご自身のビスポーク・シューズについては、ジムさんが自らラストメイクします。上画像は、そのジムさんご自身のラスト。ジムさんに、どのようにしてラストメイクを学んだのか聞いてみました。
「テリー・ムーアと30年来の友人なので、彼から見たり聞いたりで多くの事を学んだよ。私の最も好きなお店がフォスター&サン。トラディショナルだね。良いチームだ」

革は他のロンドンのビスポーク・シュー・メイカーと同様にA.&A.クラックから仕入れております。クラストレザー(未染色革)もありますね。

ジムさんの使う製甲用ミシン。

ビスポークだけに、もちろん飾り穴も手作業でして、親子穴を空けるための道具です。

「100年以上は前の物だろう」と言う、ジムさん所有の貴重な手動の漉き機。

このようにして部材を通して加工します。

ブーツを作る際、アッパーのくせ付け工程であるブロッキング(日本での呼び名はクリッピング)ももちろんハンドで、そのくせ付け用の型です。

くせ付け途中のインソール。

通常、打った釘は外側に倒されますが(青矢印)、ジムさんは横に倒している(黄色矢印)のが特徴的です。インソールの淵を綺麗に仕上げるためと、横に倒した釘がインソールを押さえつける利点があるので、こうするのだとか。

そして、インソールの溝堀り作業。

釣り込み、掬い縫いを終えた状態です。掬い縫いが細かく、正確なのが目を引きます!つまり、ウェルトがしっかり固定されているわけで、アウトソールもスムーズに取り付けられ、結果、接地力が良くなります。

このモデルは飾り革のあるデザインのため、ロンドンのビスポーク・シューズらしく、トウの部分は二重になります(黄色矢印)。そして、ジムさんの掬い縫いが強力のため、ライニング、二重のアッパー革、そしてウェルトががっちりと密着しているのも確認できますね。

ジムさん所有の底付け用の麻糸。これは今や貴重となった、デッドストックの北アイルランド製の麻糸。年々、麻の品質は低下しており、昔の麻糸の方が丈夫で切れにくいのです。こう言ったデッドストックの麻糸を持っているのも、ヴェテラン職人さんならではです。

出し縫いをかける前に、ウェルトに走らせるウィール。ウィールによってできた刻みが、針を入れる目印になります。一般的に、出し縫いのピッチが荒いほどカントリー向きで、細かいほどドレス向きです。そして、ウィールの番号が多いほど刻みは細かく、靴のスタイルによって何番ウィールを使うかも職人さんによって多少の違いがあります。
「自分の場合、メンズのドレスシューズは10番か11番。モーニング(礼服)用だと16番。メンズは16番までだ」

右が18番、左が24番と言う、非常に細かいウィールはレディース用。レディースだと、メンズよりさらにドレッシーに見せる必要があるためですね。
なお、ジムさんの作る靴は美しい出来栄えのみならず、実用性にも優れていると、ロンドンの某靴職人さんが話しておりました。
「ジムの作る靴はコバの幅を多く取ってあり、修理が何回もされてもOKなように考えられています。だから、履き込んで修理の段階になっても、ウェルトがあまり崩れていません。ジムの靴には靴修理師への思いやり、履かれる靴への愛情を感じます。ウエストエンドの歴史とともに働く人間は、そう言った文化を背景に持っています」

ちなみに、僕が伺った際はジムさんは移転作業中でして、こちらはその移転前の工房。ジムさんの生家の庭に建てられており、30年以上使ってきたとの事です。

その古い工房内。年季が入っているのが伺えますし、この小さい空間から数多くの名作を生み出して来たのかと思うと、感慨深いものがあります……。
※情報はいずれも、僕が訪問した2015年4月1日時点のものです。
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