Daniel Wegan of Gaziano & Girling bespoke department head(ガジアーノ&ガーリングのビスポーク部門長、ダニエル・ヴィガン)
CATEGORY靴・服飾

世界的に人気の高級靴、ガジアーノ&ガーリングのビスポーク部門を担う、Daniel Wegan(ダニエル・ヴィガン)さんのお仕事の様子を伺って参りました。
伺う前、僕がロンドンの某靴職人さんから聞いた話によると、「ダニエルは世界で10本の指に入る靴好き」だとか……。

ダニエルさんはスウェーデンのストックホルム出身で1982年生まれ。前職は自転車整備士だったのですが、ドレスシューズへの強い興味のため、05・06年頃から独学で靴作りを開始。ストックホルムのサドルメイカーさんや靴職人さんから作り方を教わったり、道具を調達していたりと、その強い意欲が伺えます。そして、09年8月に自分の作りたい靴を作れる環境である、ガジアーノ&ガーリングに入社。現在では月曜日から金曜日まではガジアーノ&ガーリングの工場でビスポークのラストメイキングとパターンメイキングを行い、仕事から帰宅後の夜と、休みの週末はボトムメイキング。さらにロンドンの店舗にてお客の採寸も行ったりと、靴作りにどっぷり浸かった毎日を過ごしております。
「ここ2・3年、2週間に一日しか休みがないよ」
個人事業主ではない、法人の英国ビスポーク・シュー・メイカーは、通常、分業制であり、これだけ多くの仕事を担っている職人さんは珍しいです。ただ、製甲についてはまだ練習中だそうで、現在は仮縫い用の靴の製甲を行っているとの事。

ダニエルさんと同じくスウェーデン出身で、1983年生まれのAndreas Reijers(アンドレアス・レイヤーシュ)さん。僕が伺った当時は、「4か月ほど前からノーサンプトンに住んでいる」との事で、クロケット&ジョーンズにてクリッカーとして勤務する傍ら、週末にダニエルさんからハンドメイドシューメイキングを学んでおりました。そして、16年3月からは、ガジアーノ&ガーリングのビスポーク部門で勤務しております。

ダニエルさんの自宅にある作業台。ボトムメイクに使う麻糸はスウェーデンのリネンを使用。以前はヘンプを使った事もあったそうですが、やはりスウェーデンのリネンが良いと言う結論になったそうです。

そして、使用している工具の一つが日本の包丁。「エクセレント」と賞賛していました。


以前にご紹介したアウトワーカーさんと同様に、ダニエルさんもウェルトやヒールパーツなどの部材に出来合いは使わず、自作します。インソールの作成方法や、シャンクは革で、フィラーはフェルトと言うのも同じです。ただし、仮縫い用の靴のインソールは、イタリア製の出来合いから作るとの事。
底材に使う革のタンナーも、他の英国ビスポーク・シュー・メイカーと同様にベイカーです。ただし……。
「最近、ガラ&フィス(フランスのタンナー)を仕入れたんだよ。片足をガラ&フィス、もう片足をベイカーで作って、その違いを比較しているんだよ」
凄い探究心です!
ちなみに、ガジアーノ&ガーリングにおいて、ビスポークのボトムメイクを担当している職人さんは、ダニエルさんを含めて4人だけだそうです。
「少ない人数で作っているから、数をこなすのが大変だよ」

ダニエルさんは部材の剛性を上げるための手動式プレスマシンを二台お持ちでした。そのうち一つは、故郷であるストックホルムの会社製。

ダニエルさんがトウに先芯を取り付けた状態です。段差が出ないようスムーズに仕上がっていますね。

シームレスヒールの作成中。
「シームレスヒールはガジアーノ&ガーリングのシグネチャーモデルだからね、よく作っているよ」
しかもなんと!この靴はシームレスホールカット!継ぎ目のない一枚仕立てで、釣り込みの難しい仕様です。

ダニエルさんが自分用に作った靴です。
「好きなスタイルはシンプルでベリーブリティッシュ、ラウンドトウ、色は黒。自分用に作ったスクエアトウは一足だけだね。でも、色んなスタイルが好きだよ」

この二足もダニエルさんが自分用に作った靴で、往年の名職人、トゥーセックのスタイルとの事。
「バーガンディは小さいキャップでヴァンプも短く、よりトゥーセックらしいスタイルだと、自分は思う」
「お客はベヴェルト・ウェイストの注文が多いけど、自分にはセクシーすぎるので、スクエア・ウェイストの方が好きだね」
そして、この二足ともに、スクエア・ウェイストで作られていました。

一ひねりあるヒールのディテイル。

レーザーカーヴィングを施した、ガジアーノ&ガーリングらしいモデルもありました。

さて、こちらはケタリングにあるガジアーノ&ガーリングの工場での、ダニエルさんのラストメイキングの様子。ラフターン、つまりラフに削った状態のラストから、削り出して作ります。そして、基本的には全て手作業で削り、サンディングマシンで削ったりはしないとの事。これも古典的手法にこだわる、英国らしいですね。なお、この画像はヤスリがけですが、荒断ちする際の斧はフランス製を使用との事。
「ラストメイクにおいて、トニースタイルは重要だ」
14年に工房がケタリングに移転後、ラストメイキングは全てダニエルさんが行っているそうですが、やはりトニー・ガジアーノさんが築いたハウススタイルを継承しているという事ですね。

ビスポーク用ラスト(ラフターン)はフランスから取り寄せており、もちろん木製です。この取り寄せ先もダニエルさんが決めており、ダニエルさん、ビスポークの仕事は大分任されています。

そして、ラストメイクで革を貼る接着剤や、表面の仕上げ剤には日本製を使用。これだと、他の物よりクリーンに仕上がるとの事。オンラインショッピングで買ったそうです(笑)。

ビスポークのパターンもダニエルさんが担当です。ただ、トニーさんが得意なスタイルについては、トニーさんが作るとの事。

仮縫い用の靴。修正のため、カットされた跡がありますね。

ビスポーク部門のダニエルさんのアプレンティス(見習い)である、Richard Churchill(リチャード・チャーチル)さん。この当時、34歳で、「8ヶ月前に入社した」との事。それ以前はスポーツ会社にてマネージャーをされていたそうです。仮縫い用靴のパターン作成などを担当しておられました。

これらはガジアーノ&ガーリングのビスポーク・シューズのサンプルで、ダニエルさんが携わる前に作られた物です。左から二番目のガルーシャのホールカットは、現在は日本でご活躍する川口昭司さんが、ガジアーノ&ガーリングのアウトワーカー時代に底付けをされた靴です。ちなみにダニエルさん、川口さんとも仲が良いです♪

ガジアーノ&ガーリングらしい、レーザーカーヴィングのサンプルシューズ。

細身のモデルが多く、これもガジアーノ&ガーリングらしいスタイルですね。
※情報はいずれも、僕が訪問した2015年3月22・24日時点のものです。
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