Bower Roebuck and W.T.Johnson & Sons in Huddersfield(ハダースフィールドのバウワー・ローバックとW.T.ジョンストン&サンズ)
CATEGORY靴・服飾

【Bower Roebuck(バウワー・ローバック)】
住所:Glendale Mills, New Mill, Huddersfield, West Yorkshire
スキャバルの傘下にあるミルで、やはりスキャバルにも多く生地を織っております。何より、スキャバルの超高級生地、例えば、ゴールド・トレジャー、ラピス・ラズリ、ダイヤモンド・チップなどは全てここ製で、そう言った繊細な生地を作れるのが、この会社の売り物ですね。何でも、バウワー・ローバックでは、02年に付近を流れる川の氾濫があって6ヶ月間操業停止となってしまい、それをきっかけに400万£もの設備投資を行い、モダン路線に切り替わったそうです。新しい機械だからこそ、新開発される超高級生地も織れると言う事ですね。やはり高級路線と言う事でしょうか、化繊は扱わず、全て天然素材による生地です。もちろん、スキャバルだけでなく、フィンテックスやダンヒル、ラルフ・ローレン、プラダなど、他のマーチャントやアパレル会社にも生地を織っています。
なお、上画像をご覧頂けるとおり、サヴィル・クリフォードは姉妹会社です。

工場を案内して下さった、社長のRonald Hall(ロナルド・ホール)さん。御幸毛織の英国法人である、MINOVA(ミノヴァ)のデザイナーとしてキャリアをスタートされたそうで、今でも日本に出張される事もあり、日本の生地事情もよくご存知でした。

生地製作については、以前に書いた、ハリスツイード・ヘブリディーズの工場とも比べると面白いかもしれません。まずは、既にある程度まで形になっている糸に、撚りをかけていきます。

完成した糸を、必要な分だけ巻き取ります。

経糸となる糸を、生地に応じて並べ(整経)、織り上げる準備にかかります。

そしてなんと!この整経機は日本の会社製でした。「SUZIKI」と書かれていますね。

こちらの整経機は古めで、02年以前からの生き残りとの事。

整経を終え、糸を巻き取ったビームが並べられています。

コンピューター制御された、ドルニエ社のレピア織機で織っていきます。この新しい織機は高速ながらジェントル(優しく、穏やかに)に糸を走らせられるため、モダンな生地に向いているとの事。つまり、新開発される細番手の高級生地に向いていると言う事なんでしょうね。

織機は十分なスペースの中に、たくさん配置されていました。

生地が織り上げられました。

こちらはサンプル作成用の古い織機で、ご覧のとおりのシングル幅です(ちなみに機械織り)。リントン・ツイードと同様に、サンプルの場合は量を必要とせず、また試作を繰り返すため、小さいシングル幅なのだと思われます。

目視チェックし、不具合があれば補修されます(メンディング)。

この時は業務終了間際だったので多くの職人さんが帰られていたのですが、実際はもっと多くの人で補修作業を行っているそうです。
この後、織りあがった生地に質感を与える、仕上げ(整理)加工がありますが、これは専門業者さんへ外注です。

仕上げが終った後、さらにもう一度検品作業があります。

そして、出荷となります。出荷先には、ラルフ・ローレンやリチャード・ジェイムス、日本のオンワードもありました。

オペレーションルームでは画像に見える以外にも複数のPCが置かれ、作業やスケジュールを管理していました。

奥行きある生地置き場。

生地を見比べるためのサンプル。ブレニッシュ・ツイードと同様に、見比べやすいように各所で色柄を変えてありますね。

バウワー・ローバックの売り物ともいえる、超高番手生地、Super200's。参考までに、目付は240-250g。もちろん、スキャバルのSuper200's生地もこのバウワー・ローバック製です。

さすがに質感は滑らかで、美しい艶がありました。

歴史あるミルだけに、古いサンプルバンチが残っております。こう言った資料が、生地の色柄を作成する際、糸の組み合わせなどのノウハウとなっているとの事。

新しい機械が活躍するバウワー・ローバックですが、設立自体は1899年と古いため、建物も旧くて趣ありました。

【W.T.Johnson & Sons(W.T.ジョンストン&サンズ)】
住所:Bankfield Mills, Moldgreen, Huddersfield
1910年創業の生地の仕上げ(整理加工)と染色業者で、バウワー・ローバックなどのハダースフィールドの生地会社はもちろん、スコットランドの生地会社からも仕事を請け負っております。エスコリアルの生産業者とも密接な関係にあり、仕上げを行っているとの事。

工場を案内して下さった、技術部長のAlan Dolley(アラン・ドリー)さん。アランさんが手にしているのは、ロンドンシュランクが施された生地です。

ロンドンシュランク以外にも多くの仕上げ方法があり、そのサンプルが掛けられております。

例えばこちらは、左のネイヴィー生地が何も仕上げをしていてない素の状態で、右のグレイ生地がヴィンテージフィニッシュ。画像では違いが分かりにくいですが、ヴィンテージフィニッシュはその名のとおり、表面が枯れた感じの風合いです。なお、フィニッシュ=仕上げの意味です。

こちらは左がマットフィッニッシュ、耳の付いている右がマーチャントフィニッシュとの事。マットフィニッシュもその名のとおり、マットでおとなしめな風合い、右は高級感ある雰囲気でした。

左は同じくマットフィッニッシュ、右はウィンターフィニッシュと呼んでおられました。ウィンターフィニッシュと比べると、やはりマットフィニッシュは風合いがおとなしいですね。

左がロンドンシュランクで、やや光沢があり、表面の感触が滑らかでした。右はシャイニーな仕上げで、僕が見させて頂いたサンプルの中では、その名のとおり、一番光沢がありました。このシャイニーな仕上げは、韓国の方が好むとの事。
他にも、最先端技術により、生地に清涼感を持たせた"クール・フィニッシュ"、生地を水や染みから守る"ナノブロック"、生地に抗菌作用を持たせた"シルヴァー・シールド"、生地の耐久性を高める"V.V.フィニッシュ"などがあります。さらにモヘアには、それ用の仕上げもあるとの事。
また、洋服生地だけでなく、家具用生地の仕上げも行っております。

さて、工場内では、色んなミルから送られて来た生地が山積みされておりました。これらにそれぞれ仕上げを施します。

生地に洗いをかけます(洗絨)。これは木製ローラーによる古い洗濯機です。

こちらも古い洗濯機。使うのは天然洗剤のみで、化学洗剤は使わないとの事。ただ、使用する洗濯機は他にもあり、仕上げ方法によって変えるそうです。

そして、生地を縮絨させて、繊維を密にします。

その後、画像ではちょっと分かりにくいですが、左右からクリップで留めて、皺を伸ばします。

機械にかけて、生地表面の毛羽を取り(剪毛)、表面を整えます。

生地を蒸し上げて安定させる、蒸絨と呼ばれる作業。この工程で、生地に光沢やコシが生まれます。この機械は、連続して高温の蒸絨ができる、Ekofast(エコファスト)と言って、アランさんの知る限り、これを使用しているのは世界でもW.T.ジョンストンだけだそうです。昔は御幸毛織も使っていたそうですが、今はないとの事。
そしてこの後、乾燥や生地表面の不具合の除去作業があります。

仕上げは前述のとおり多岐に渡るため、それぞれに方法があって企業秘密も多く、他にも工程はありますが、大まかにはこう言った流れです。ちなみに工場内では、名古屋の機械も使われてました。

作業完了して、出荷を待つ生地。

こちらが工場入口です。
※情報はいずれも、僕が訪問した2015年3月17・19日時点のものです。
※2016年4月4日、蒸絨機械の画像を入れ替え、それに伴い、文章も修正しました。
- 関連記事
-
-
靴雑誌「LAST」8号について、今更 2006/11/01
-
Beauty and Old Bona(Bond) Street in Roma(ローマのビューティとオールド・ボナ・ストリート) 2017/05/05
-
Sartoria Seminara and Liverano & Liverano in Firenze(フィレンツェのサルトリア・セミナーラとリヴェラーノ&リヴェラーノ) 2017/01/08
-
Christian Tailoring and Zenonni in București(ブカレストのクリスティアン・テイラーリングとゼノンニ) 2016/01/16
-
George Cleverley in London(ロンドンのジョージ・クレヴァリー) 2016/05/17
-
紳士靴の色気 2011/10/27
-