London bespoke shoemaking(ロンドンのビスポーク・シュー・メイキング)
CATEGORY靴・服飾

ロンドンのビスポーク・シュー・メイカーの場合、店内の工房で行うのはラストとパターン作成、クリッキングまで、またはクローズィング(アッパー作成)までで、その後の底付け作業、つまりインソール作成、釣り込み、掬い縫い、出し縫い、ヒールの取り付け、仕上げは外部の底付け職人(アウトワーカー)さんが行う事が多いです。例えば、現在は日本でご活躍中の福田洋平さんや、マーキスの川口昭司さんも、ロンドン時代はこの底付け担当のアウトワーカーさんでした。
そして僕は、ロンドンのビスポーク・シュー・メイカーのアウトワーカーを長年務めておられる靴職人さんの工房を伺い、その底付け方法をご説明頂きました。

ロンドンのビスポーク・シュー・メイカーの場合、出来合いのパーツを加工して作るのではなく、パーツも一つ一つ手作りです。例えば、ヒールに積み上げる革はもちろん、トップリフト(ヒールの地面に接地する部分、トップピースとも言う)も、最初からゴムが付いたヒールの形をしたパーツではなく、上のような一枚の革を、職人さん自らハンドで切り出して作成します。ちなみに、こう言ったソール材に用いられる、革のタンナーはベイカーです。

ゴムは上のパーツを両足分に割って、切り出した革と合わせてトップリフトを作成するわけですね。

ウェルトも、あらかじめ漉かれていたり、ウィールが入っていたり、巻き込みやすいように刻みが入っていたり、掬い縫いのための溝が彫ってあったりの、出来合いは使われません。上のような細く切られただけの革を、職人さんが自分で加工して作ります。
「お店が部材をこの状態で送ってくるからね。あとは自分でやるんだよ」
自分で加工する分、もちろん手間はかかります。でも出来合いではない分、職人さんが加工できる範囲は広く、靴のスタイルに合わせたデザインを作りやすくなり、微調整もしやすくなります。ありとあらゆるスタイルを作るビスポークだからこそ、出来合いは不要と言う、ロンドンビスポーク・シューズ業界の考えなのかもしれません。
なお、ヨーロッパでも日本でも、出来合いパーツでビスポーク・シューズを作成しているメイカーは珍しくありません。

この職人さんが、底付け作業時に使用する唯一の機械が、この小さなサンディングマシン(グラインダー)。これを使うのもメタルチップを荒削りする時だけで、レザーもラバーも削る作業はハンドだそうです。そのため、この小さいマシンでも問題ないのでしょうね。
「サンディングマシンを持ってない頃は、メタルチップを削るのもハンドでやってたから大変だったよ」
もちろん、メタルチップを削る際も、仕上げはハンドでヤスリがけするそうです。

フィラーはフェルトを用いるのが、ロンドンのビスポーク・シュー・メイカーの特徴の一つ。他国では、コルクやレザーとかだったりしますね。シャンクは革で、これももちろん自分で加工して作ります。

インソールのくせを付ける方法は、濡らした革を上画像のように、ソールの中央と全周に釘を打ちつけて行います。これはロンドンだけでなく、フランスやイタリアでもよく用いられる手法で、もちろん日本でも行われています。

こちらはロンドンのビスポーク・シューズ、ウィングチップのアッパーです。

そして、その裏側。

トウ部分を見ると(黄色矢印部分)、アッパーが二重になっていますね。ロンドンのビスポーク・シュー・メイカーがキャップトウやウィングチップと言った、トウに飾り革があるデザインを作る場合、トウはこの二重になるのが標準仕様です。
これはトウの革と、甲の部分の革を繋ぎ合わせて作るのでなく、プレーントウに飾り革を被せて作っているため、二重になるわけです。ただ、足幅のあるお客さんに対しては、足を細く見せるために二重にしないケースもあるとの事。
このトウを二重にする方法は、ロンドンのビスポーク・シュー・メイカー以外では、ローマのビスポーク・シューメイカーや、ミラノのメッシーナ、ウィーンのルドルフ・シェア&ゾーネなど、ヨーロッパでも一部のメイカーでしか行われていない古典的手法です。日本でも、古幡雅仁さん、マーキスの川口昭司さんなど、一部の職人さんしか行っていません。二重になる分、釣り込みが面倒になり、革も余計に要るため、あまり行われないのです。
トウを二重にするメリットとしては……。
・トウの革が交換可能。
・トウの革が後付のため、トウの革を左右同じに配置しやすくなる。
・トウから甲へのラインをスムーズにしやすい。
と言った事が挙げられます。この二重のトウについては、以前に僕がウェブサイトで作成した、古幡雅仁さんのページでも言及しておりますのでご参照下さい。

底付けが完了したアウトソール。さすがのクリーンな出来栄えです!職人さんがご自身で繋ぎ合わせた、トップリフトの革とラバーも、しっかり収まっていますね。
以上のように、ロンドンのビスポーク・シューズは手間のかかる手法を採用しておりますが、それでも底付けのアウトワーカーさんは、週に二足あげるのが一般的だそうです。
出来合いパーツや機械が充実している現在、これほどまで手間をかけて作るのは頑なすぎるかもしれない。しかし、その頑なな精神があってこそ、伝統の技術が守られる。英国の職人魂が見えようものです。
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