靴磨きは13年にして成らずだが一日にして成るんじゃないの?

5月下旬から現在まで、時間を見つけては、手持ちの靴をまとめて磨いてます。あと6足ほど磨いたら、全て終了予定です。
4月22日に買った、新サフィール・ノワールのクレム1925(シアバター配合)、今回、初めて使ってみたのですが、思っていたよりも良い仕上がりでびっくりです!やっぱり高いだけありますね~。でも高すぎるので、今度、欧州旅行した時に、まとめて買って来ようと思います。
「これまで色んな国で、何度も靴を磨いてもらいましたけど、靴磨きは人それぞれ、やり方がぜーんぜん違います。なので、あまり手順にこだわらず、色々試しながら、自分なりの方法を考え出すのが一番ですよ。靴磨きに正解はありません」
僕が初めて高級靴を購入した際、ユナイテッド・アローズ原宿本店のスタッフさんにそう教えて頂き、まさに自分なりの靴磨き方法を完成させようと試行錯誤し、現在は13年ほどになっております……。
そして辿り着いた靴磨き方法は、ハッキリ言って、手間かかります。面倒くさがって手抜きする事もあるのですが、いざ気合入れて行うとなると、本当に時間がかかります。僕の手際が悪いだけかもしれません。(僕は半端じゃなく不器用です)
僕の靴磨き方法を手順ごとに書いてみましょう。基本的に、雑誌やネットなどで紹介されている方法とあまり変わらず、目新しい点はないのですけどね……。
1:ブラシでアッパーの埃を払い落とす。
2:アッパーを水拭きする。
3:ステイン・リムーバーを用いて、アッパーの汚れや、前回塗った靴クリームの蝋分を落とす。
ステイン・リムーバーを使う前に水拭きする理由は、水によって汚れや蝋分を浮かし、洗浄効果を高めるためです。ステイン・リムーバーをはじめとするクリーナーには賛否両論ありますが、使わないでいると蝋分が落ちないせいでしょうか、靴クリームの入りが悪いため、僕は使っております。
ただ、ステイン・リムーバーは強すぎると言う評判を聞いてからは、水で半分に薄めてから使用しています。半分に薄めても、洗浄効果は十分にあります。もちろん、ステイン・リムーバーは時間の経過とともに成分が分離しますから、かき混ぜながらの使用です。
そして、上記の方法でも、まだクリーム(ワックス)が残っていると思われる場合は、サドルソープで洗浄します。
汚れ落しには、ニュートラルのクリームが革に良いとも聞き、実際に試した事もありますが、どうもただクリームを上塗りしている感が否めず、止めました。
別メイカーのクリーナーや、テレピンオイルも良いとも聞きますが、まだ使った事がないんですよねー……。こちらもいずれ使ってみて、効果を確認してみたいですね。
4:ソールの汚れをヘラを使って削ぎ落とす。
もちろん、これだけではソールの汚れは落ちません。まずは大雑把に砂や泥を落とすのが目的です。
5:ソールとコバの汚れを落とす。
この汚れ落としには、僕はエタノールを4・5倍ほどに水で薄めたものを使用しています。エタノールの割合が多すぎると革を傷めるため、僕としては4・5倍ぐらいが丁度良いと感じました。
なお、このエタノールの希釈液、アッパーに試した事もあったのですが、やはりアッパーはソールやウェルトと比べて繊細なため、不向きです。もし使うとすれば、ベルルッティのパティーヌでシャンペンを使うのと同様、鏡面仕上げ時にワックスを伸ばす時だけ、使えば良いと思います。
ちなみに、そのエタノールの希釈液や、上記の水で薄めたステイン・リムーバー、または鏡面仕上げ用の水は、こんな↓小カップに入れて使用しています。

このカップ、地元のケーキ屋さんの、プリンが入っていたカップです(笑)。
これでようやく、靴のクリーニング終了……。いよいよ磨きに入りますが、何足もやっていると、ここまででも結構時間がかかっているので、僕は大抵、以降の作業は翌日に持ち越しです(笑)。
6:アッパーを水拭きする。
まずは固く絞った布で、アッパーに湿り気を与えます。革をふやけさせて、靴クリームの浸透性を高めるのが目的です。何でも、水で濡らす事により、革の毛穴が開くそうですね。
これはブリフト・アッシュ代表の長谷川裕也さんも、よく雑誌等で紹介している手法ですね。
7:アッパーに乳化性の靴クリームを塗る。
僕の場合、ペネトレイトブラシは使わず、綿100%の布を指に巻きつけて塗っております。ペネトレイトブラシも良さそうなのですが、クリームをたくさん取りすぎちゃいそうなのと、各色ごとに買い揃えるのが面倒なので(笑)、布で塗っています。
8:ブラシをかける。
ハンドルタイプのブラシを使います。塗ったクリームのムラをなくすのと、クリームをより、アッパーに馴染ませるのが目的です。
9:コバにクリームを塗る。
面積が小さい部分のため、塗り辛くて面倒だし、光沢が出るわけでもないので、つまんない……。
また、高級靴でも、中には本革ではなく、圧縮ボール(パーティクル・ボード?)をウェルトに使用しているのもあるので、その場合、クリーム塗る意味がどこまであるのかな?と思ったりもします(笑)。
10:コバにもブラッシング。
11:ソールにソール用オイルを塗る。
ここでいったん、作業終了です。塗ったクリームを革に浸透させるため、半日以上放置します。以降の作業は、翌日です。
12:クリームを塗った箇所に、仕上げの乾拭き。
もちろん、表面に残ったクリームの除去が目的です。
13:トウにワックスを塗る。
要するに、鏡面仕上げの準備です。僕は大抵、トウだけに行うんですが、気が向いたら、アッパー全面に鏡面仕上げをする時もあります。その場合は、7の時に乳化性クリームではなくワックスを塗り、13・14を飛ばして、15に入ります。
なお、僕の場合は基本的に、鏡面仕上げはクロームなめしのカーフかコードヴァン、またはベルルッティだけにしか行いません。タンニンなめしの革は風合いを活かしたいので、ワックスによる人工的な輝きは避けたいんですよね。
14:ワックスを塗った箇所にブラッシング。
8と同様、ワックスをアッパーに馴染ませるのが目的です。
15:湿らせた布を指に巻きつけ、わずかにワックスを取り、鏡面仕上げを行う。
布が乾いてきたら、またわずかに湿らせます。鏡面仕上げ独特の輝きが出てきたら、終了です。
長い!
と言いますか、テキストそのものも長すぎますね。読むのも疲れますね。うん、そうですね。
たかが靴磨きに、なぜこんなに手間隙をかけなくてはいけないのかと、常に自問自答しております。ついでに、たかがWeblogに、なぜこんなに長文を書いてるんだと、いつも自問自答しています。でも、このくらいやらないと気が済まない、自分がいたりします。
たかが靴磨きにこんなに時間をかけている自分、ちょっとカッコ悪い。
そう思ったりもします。これがお仕事なら良いのですが、僕はただの趣味ですからね……。
もっとも、僕も毎回、こんなに手間をかけているわけではありません。鏡面仕上げ、僕はたまにしかやらないですし、必ず行うのは、1・2・3・6・7・8・12ぐらいでしょうか。
コバのケアは3回に2回ぐらいの割合で、ソールのケアは1~2年に一度ぐらいの割合です。いずれ修理で取り替える部分ですから、それほど神経を使わなくても良いかなと思っています。
あと、僕の靴磨きのペースは、半年に一度くらいですが、時間が取れない場合は、それ以上期間が空くのも珍しくありません。でも革の状態を見ると、3・4ヶ月ほど経ったら、結構乾燥が進んでいるんですよね。できれば5ヶ月目あたりには、クリームを入れたいところです。
しかし、この靴磨き方法が果たして正しいのかと言われれば、正直僕は、自信を持って「はい」とは言えません。
こちら↓は、磨き終えてからすぐの、クロケット&ジョーンズのホワイトホールです。12年ほど履いております。

我ながら、良い光沢出していますよ~。トウなんて艶々ですよ。
でも……、靴好きとしてお恥ずかしくもあるのですが、こちら↓をご覧下さい。

クラック(亀裂)が入っちゃっているんですよねー……。靴に対して申し訳ないですし、靴好きなだけに、ショックは甚大です……。このクラック、去年の終わりごろに入ってしまいました。しかも、靴マニアを自称していて、本当にお恥ずかしい限りなのですが、クラックが入ってしまったのは、これだけではないのです。
僕にとって記念すべき、人生初の高級靴のクラックは(わあ)、チャーチのマスタークラス、イブセンでした。

6年ほど前に1本だけ入ったクラックが、その後、すぐに3本に増え、やがて現在では4本になっております……。嗚呼、チャーチ、情けない持ち主ですいません。

さらに、最初は左足だけにしか入ってなかったクラックが、上記画像のように、現在は右足にも入っております。
そして昨年には、ホワイトホールだけでなく、エドワード・グリーンのチェルシーにもクラックが入ったんですよねー……。貴重な旧工場製エドワード・グリーンなだけに悲しいですし、世界中の旧工場製エドワード・グリーンファンの皆様にも、申し訳ない気持ちでいっぱいです。


エドワード・グリーンについては、去年の半ば頃でしょうか、両足とも入りました。
僕がクラックを入れてしまった靴は、以上3足です。自分が好きな靴がこう言う状態なのは、やはり心苦しいので、近いうちにブリフト・アッシュさんなり、かわごしさんなりで、クラック補修をお願いしようかなと思っています。もう手遅れかもしれませんけど……特にエドワード・グリーン。
靴磨きの手法が、果たして本当に正しいのか、10年ほど履いて、初めて間違いに気付いたりします。靴磨きの難しさと奥深さです。
今はクラックが入ってない他の靴だって、今後はどうなるか分からないですし、正直、数年後は怪しい靴もいくつかあります。
僕だって靴好きになった当初から、色んな靴磨きのマニュアルを読んで、「この磨き方が良いのだろう」と思いながら、靴磨きを行っていたんです。上記の僕の靴磨き方法も、雑誌やネットで紹介される方法と、さほど変わりはありません。それでも、このようなクラックを入れてしまいました。
一体何が原因だったのでしょうか?おそらくは、ワックスの厚塗りです。厚塗り自体も良くないのに、その後、しっかりワックスを落としてなかったのもまずかったです。
あとお恥ずかしい事に、僕、5・6年ぐらい前までは、靴磨きの際、持ちやすいがために、シュー・トゥリーを入れないで行っていたんですよね……。これも悪かったと思います。履き皺の部分に、クリームや汚れが堆積する一方ですから。もちろん今では、必ずシュー・トゥリーは装着して行っています。
ただ、以上もあくまで推測であって、クラックの本当の原因は別かもしれません。他にも理由はたくさん考えられます。ステイン・リムーバーの使用、雨での使用、靴磨きの少ない頻度、革質、または革の特性そのもの……。
あくまで僕の判断ですが、カーフの場合、タンニンなめしよりクロームなめし、アニリン仕上げより顔料仕上げの方が、クラックが入り易い気がするのですが、どうでしょうか。要するに、なめしや仕上げの時間が短いカーフほど、クラックが起こりやすいように思います。もちろん、手入れ次第でどうにでもなるのでしょうけど……。
クラックが入ったとしても、その明確な理由が分からない。靴磨きって本当に難しいです。
また、僕は靴磨きの際、撫でるくらいの力加減で、クリームを入れたり、クリーナーをかけたりしているのですが、千葉尊さんや松室真一郎さんをはじめ、圧力をかけて磨いている方もいます。このご両名のような、靴クリーム「擦り込み式」は、80年代以前の日本の靴磨き屋さんでは、割と用いられていた手法とも聞きます(裏は取ってないです)。
僕としては、力を入れると単純に革を傷めそうだと思い、撫でる程度の力で磨いているのですが、擦り込み式の方は、圧力をかけないと、靴クリームが内部まで浸透しないと仰います。また、ただ擦るにしても、その力の入れ方に、隠されたプロの技術があるのかもしれません。
クリームを入れるにしても、正しい力加減が不透明。ここも、靴磨きが難しい点です。
僕は自分のサイトにて、かつては「Shoe Care」のページを設けていたのですが、数年前に取り払いました。シューケアについて、僕のサイトよりもはるかに詳しい本、サイトが増えたのが一番の理由ですが、他の理由としては、靴磨きについて、あまりに不明確な点が多すぎ、下手に手法を公開するべきではない、とも考えたためです。
僕も色々試行錯誤して、現在では上記のような靴磨き方法に落ち着いていますが、僕の所有する高級靴はこう言う状態のため、僕の靴磨き方法は当てにしないで下さい。と言いますか、上記方法をお読みになられて、何か良きご助言がございましたら、お願い致します。
僕は13年試行錯誤しましたが、まだ靴磨きの正解が分かりません。そしておそらく、今後もどんどん分からない点が出てくると思います。僕の頭が悪いだけかもしれませんけどね。
そう思いを巡らす一方で、別の現実も感じたりするんですよね。
僕、靴好きになったばかりのころ、某テイラーさんに、どう靴磨きをしているのか、聞いた事があるんです。
「私はたまにデリケイト・クリーム塗るだけですよ~。面倒くさがりなんで……」
このあっさりした答えが、実は一番の正解な気がします。
クリーム塗ったり、ステイン・リムーバーかけたり、ワックスかけたり、革に手をかけてばかりいるより、デリケイト・クリームだけ塗っていた方が、革の負担はずっと少ないように思うんですよね。
ご存知のとおり、デリケイト・クリームは革の馴染みが非常に良く、保革には抜群の効果を示すクリームです。蝋分も少ないため、革に余計なコーティングもされず、クリーナーをかけないでデリケイト・クリームを上塗りしても、問題ないでしょう。しかも、伸びも浸透性も良いため塗りやすく、力加減も気にする必要ありません。ますます手間要らずです。
革が乾燥してきたら、埃を払って、デリケイト・クリームを塗る。それだけで十分じゃないでしょうか?(埃を払った後、水拭きぐらいはした方が良いかも)
もちろん、コバもソールも、そしてコードヴァンも、デリケイト・クリームだけでOKです。
もし汚れが気になっても、水拭きで大抵落ちますし、それでも落ちなかった時だけ、サドルソープをかければ良いんです。
ただ、デリケイト・クリームだけだと、やがて色が抜けていきます。そこで、着色させる時だけ、やはり革にソフトなディアマントを使用。ディアマントで合う色がなければ、天然成分だけで構成されたサフィールが良さそうですね。特にサフィール・ノワールのクレム1925。
もっとも僕、デリケイト・クリームだけで手入れし続けた事もないから、これも絶対正解とも言い切れなかったりして(笑)。
デリケイト・クリームだけだと光沢が出ないとも言われますが、実際のところは、それなりに良い革であれば、鏡面仕上げほどではなくとも、相応に光ります。
それに、デリケイト・クリームだけでも、かなり光る革と巡り合ったら、その素晴らしい上質感に、鏡面仕上げをするのがもったいなく思います。
「靴磨きの正解が分からない」と前述しましたが、結局はややこしく考えすぎて、難しくしてしまっているだけです。
そうだよな、僕。分かってるよな、僕。
保革だけ考えればいいんです。保革をしっかり行えば、革は自ずと、良い風合い、良い光沢を発してくれます。と言いますか、靴磨きとは本来、保革が主目的であって、光沢は副産物のはずです。
靴磨きとは、実はシンプルで、とても簡単。
な気がします。
もちろん、靴磨きを生業とするプロの方なら、保革、艶出し以外にも様々な技術が要求されますから、そうたやすくはいかないのでしょうけど……。
今回、僕は靴を全部磨き終えたら、次回はデリケイト・クリームだけで済ませようかな。
しかし、それが正解の一つと思いつつも、まだまだ手間のかかる方法も続けるんだろうなー、僕は……。

三段重ねで入っております。ワックスもこんなにあります(ワックス以外も入ってますけど)。僕はたまにしか鏡面仕上げをしないので、おそらく、一生かかっても全部使い切れないでしょう。と言いますか、入手してからまだ一回も使ってないワックス、いくつかあるし(笑)。

それに、まだ使った事がない靴の手入れ用品、使ってみたい気持ちもあるので、靴の手入れ用品も、まだまだ買い続けると思います。僕は靴ケア用品会社の、絶好のカモです。とは言っても、前述したエタノールの希釈液と同じ、または類似品と思われる品は、買わないでしょうけど……。
本当、デリケイト・クリームだけで簡単に済ませる境地に達したいんですけど、果たしてそれはいつになるのでしょうか……。
僕、小学2年生の時、「ミクロの世界が見たい」と言う漠然とした理由で、顕微鏡を買ったのですが、ほとんど使わないまま捨ててしまいました。しかし、今思えばとても後悔です。顕微鏡で、靴クリームの粒子や革の繊維が見たいよ~。
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・Shoe care goods of TONINO and Ralf Poppe in Köln(ケルンのトニノのシューケア用品とラルフ・ポッペ)
・If holding a shoe shine contest in Japan,,,,,,(もし、日本で靴磨きコンテストを開催するなら……)
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